初心者のためのジビエ教室
2022.05.17
昨今、注目を集めている「ジビエ」(若干季節外れですが)
「ジビエ(gibier)」はフランス語が語源で、食材となる野生鳥獣肉を意味しています
ジビエはヨーロッパでは古くからある食文化ですが、最近は日本でもジビエ料理を提供するお店が増えてきています
鹿やイノシシ、鴨を筆頭に熊・鳩・雉・兎・鶉(ウズラ)・穴熊などなど・・・
フレンチやイタリアンを中心に、近頃は和食や中華などジャンルの壁を越えても使われています
ブームやムーブメントと呼ぶにはまだまだなジビエ料理ですが、親しみの薄い方や食わず嫌いの方、一度食べて失敗して以来の方にちょっとした入り口をご紹介します
ジビエ肉は臭い???
「ジビエ肉=臭い・癖が強い」
そんなイメージを持っている方も少なくないかと思います
実際に「獣臭い」「癖が強い」ジビエ肉が少なからず流通してしまっているのも残念ながら事実です
それでも最近はずいぶんとそういった「はずれ」ジビエが減っては来ています
ではなぜ、「臭い」ジビエ肉が流通してしまうのでしょうか?
「ジビエ=臭い」というのは、実は捕獲個体の違い(性別など)とともに、捕獲から解体までの処理時間、解体処理や血抜きの技術、凍結方法や解凍方法などが大きく影響しています
かつてはこれらの技術や施設・設備が不十分なことが多く、確かに臭みや硬さを感じる肉がありました
地元の猟師さんや田舎の親戚からおすそ分けでいただいて・・・といったジビエ肉で苦い思い出がある人はこういった理由でジビエ嫌いになってしまうことがほとんどです
家畜の動物は育成からお肉になるまで一貫してストレスを与えずに流れるような動線が出来上がっていますが、野生の動物はなかなか簡単にそうはいきません
美味しいお肉になるための条件として
捕獲方法、止めさし、解体・・・と大きく分けて3要素が大きく味わいの要素にかかわってきます
捕獲方法
捕獲方法には主に「箱罠」「くくり罠」「銃」の3種類があります
⾁への⼀番ダメージが⼩さいのは、獲物に気づかれずに、銃で頭か⾸を⼀撃し、 すぐに放⾎する⽅法か、
または、⽣け捕りして、処理施設まで運搬し、⽌め刺しする⽅法です
逆に、ダメージが⼤きいのは、獲物が暴れること・・・
獲物が、⽌め刺し前に激しく動くと、体温が上昇し、筋⾁のpHが酸性になります
すると⾁は、⽩く、⽔っぽく変化して、いわゆる「⾁が焼けた」「⾁が蒸れた」と呼ばれる劣化状態となってしまうのです
⽌め刺し
(注・・・若干、残酷なお話になります)
主に電気ショッカーを利⽤し、失神させてから、ナイフで頸動脈を切るか、槍で頸動脈を狙う、または銃で頭を撃つという方法が取られます
基本的には、⼼臓が脈動し、⼗分に放⾎させることが⼤事で、放⾎が不⼗分だと、出⾎斑(シミ)が⾁に発⽣します
また、残⾎により、微⽣物の増殖を招くため、腐敗が早まり、⾁に臭みと苦みを増す要因となってしまうのです
解体
理想的な⼿順としては、
内臓落とし→体内洗浄→⽪むき→死後硬直の解除→脱⾻→⾷⾁ といわれています
特に内臓は死後温度が上がりやすく、内臓温度が⾼くなると、腸壁からアンモニアが浸透し、臭みの要因となるので素早い摘出が理想的です
生きたまま処理施設に運び込める環境であれば理想的ですが、たいていの場合は外(現地)で止めさしをして数十分~数時間かけて処理施設に運び込まれるため、美味しい食肉にするためには尚更気を遣うといわれています
施設や人によっては衛⽣上、内臓落としの前に⽪むきをすることもあるようですが、この場合、時間の経過とともに内臓から⾁に臭みが移る危険性が⾼いです
ジビエが推進される背景
実は2014年、厚生労働省は「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」を策定しすることにより捕獲から販売までの衛生管理に関する基準が設けられました
国はその後も関連制度の改正などを行い、ジビエ消費を増やすための環境整備を進めてきたため、今日のジビエ浸透に至っています
なぜか・・・?
それは、ジビエの消費は、単に「野生動物を食べる」という意味だけではなく、もとをただせば、野生鳥獣による農作物被害の増加と捕獲体制強化による捕獲数増加が背景にあります
鳥獣被害が深刻化している要因としては、自然環境の変化に伴う鳥獣の生息域の拡大、狩猟による捕獲圧の低下、耕作放棄地の増加等がありました
さらに、鳥獣被害は営農意欲の減退、耕作放棄地の増加等をもたらすという負のスパイラルもあり国が対策に乗り出したのがきっかけです
有害鳥獣の捕獲頭数は増加も・・・
国の対策によりその影響もあり、近年は有害鳥獣の捕獲頭数が増加していて、国が対策の乗り出す前の2016年、20万頭を切っていたシカ・猪の捕獲頭数はそれぞれ2021年には約70万頭に増加しています
こうした数字を見ると、ジビエの利用が進んでいるように見えます
がしかし、その裏にはもう1つ、驚くべき数字があります
それは捕獲した鳥獣のうち、実際に処理した割合を示す利用率・・・
現在のシカとイノシシの利用率は、実に約10%にとどまっています(ペットフード含む)
なんと残りの9割以上が埋設、あるいは焼却処分されているのです
上記のように、ヒューマングレードの食肉に加工するのに畜産動物より圧倒的な手間がかかるのに、消費量は限られている(値段も安定しない)
それゆえ、全国の食肉加工処理施設は数人規模で経営しているケースが多く、人手不足もありまとまった流通量を確保するのも難しい→大手の大量消費が見込める卸は取り扱いにくい商材
といったスパイラルからなかなか抜け出し切れていないのが実情なのです
というわけで・・・
「ジビエ」=「野生鳥獣の食肉」と聞くと、どこで?どのようにして?食べればいいのか分からないと不安になる人もいるでしょう
説明の通り、きちんとした処理施設を経由したジビエ肉であれば極端に「臭い」「癖が強い」肉は少なくなってきています(特に鹿・猪は) 香りの強さや特徴は羊の方がよほど強いくらいです
まずは信頼できるお店(飲食店)でおいしさを再確認し、最近は地方の通販サイトやふるさと納税なのでも手に入れることができます
尊い命が源のお肉・・・廃棄や焼却処分を少しでも減らし、美味しく大切に・・・そして積極的に頂きたいですね