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お肉の化学 初級編

2019.04.18

突然ですが、例えば料理人とパティシエさん・・・

一見外から見ると同業種に見えるかもしれませんがその実、我々からすると大きく特徴が異なる仕事です。

確かに、料理もお菓子作りも突き詰めて考察すると全て「科学」という点では同じです。

熱や化合によって元の素材の味や食感に変化を与え、一つの完成品を作り上げていきます。

それは肉でも野菜でも、粉でも砂糖でも同じことです。

ではいったい何がそんなに違うのか?

それは中心として多く使用する素材が違います。

パティシエさんは主に小麦粉や砂糖、バターや加工された果物など素材にブレのない(少ない)ものを多く取り扱います。 ですから、レシピに忠実に作る几帳面さと高度な技術が非常に大切になってくるのです。

対して料理人は肉や魚、野菜やフレッシュフルーツなどその時々や一つ一つの個性によって素材の味わいや成分など、個体差の大きい素材を多く使います。 例えば同じトマトを使うにしても、甘さや水分量が違ってくるため、細かいレシピが役に立ちません。

パティシエさんの1グラムの軽量ミスは大問題ですが、僕たち料理人は1グラムは誤差でしかありません。

元来、テキトーが服を着て歩いている私としては、細かなパティシエさんの仕事は到底勤まらず、ただただ尊敬するばかりです。

そんないい加減な料理人である私は(料理人自体がいい加減なわけではありません、くれぐれもご注意ください)、とてもとてもケーキの話はできないので、お肉の話でもしてみることにしましょう。

皆様、お肉に火が入る温度は何度だと思いますか?

「100度」だと思っている方、少なからずいらっしゃるのではないでしょうか?

そもそも、「火が入る」とはなんでしょうか?

個人的には2つの意味合いがあると思っています。

一つは人間が口にするに当たり、不都合な菌やウイルスが死滅し、安心して食べられる状態のこと。 もう一つは食材として味わいや食感が変化し、おいしく食べられる状態のこと。

この二つは大きな差があり、全くの別問題で、指標にも大きな隔たりがあります。(二つ目には「好み」も大きくかかわってくるので、かなりの幅がありますが)

O-157を死滅させるには75度で1分以上 ノロウイルスを死滅させるには85度で1分以上 ボツリヌス菌に至っては100度で加熱しても死滅しません。

その他多くの食中毒菌を死滅させるにも63度で30分加熱が必要とも言われています。

しかし、これを順守していたらロゼ色に輝く、しっとりと柔らかなローストビーフは一生涯口にすることはできません。

ですから、おいしいお肉を食べるにはまず菌を最大限に減らすこと・・・ 使用器具の除菌はもちろん、肉自体の鮮度が非常に非常に大切。 あとは作る人間の信用問題と食べる人間の自己責任です。(笑)

また、お肉の菌はほぼほぼ表面に存在します。 表面だけでもしっかりと高温で処理することでリスクはだいぶ減りますのでご参考までに・・・

あくまでも厚生労働省は75度(芯温)で1分以上、或いはそれと同等の加熱を指導しています。 私の記事は参考と認識し、実行実食に関してはくれぐれも「自己責任」ですので、その点は宜しくお願いいたします。(笑)

さて、お肉の種類により変化の感じ方は多少違ってきますが、ざっくりと説明しますと一般的に・・・

約40度で旨味成分の詰まった肉汁が細胞から遊離を始めます。 そして、旨味は水に溶けた状態の方が人間の舌はおいしく感じやすくなるようです。

約55度で筋細胞をつなぎ合わせる役割を担っているコラーゲンが緩み始めます。

約58度からゲル状であったお肉のたんぱく質が固化を始めます。

約60度から緩んでいたコラーゲンが収縮得を始め、肉内部にあった肉汁を絞り出し始めます。 焼いたお肉が縮んだり反り返ったりするのはこれが原因。

約70度でコラーゲンが縮み切り、肉汁の流出も終わります。 またこの温度からコラーゲンは溶け始めます。 長時間煮込んだ肉が繊維状に崩れ、ホロホロと柔らかくなるのは、繊維をつないでいたコラーゲンが溶けてなくなるという現象によって起こることなのです。

さて、以上の変化を考察したもとで、肉の種類にもよりますし(肉の種類により組織及び保有する菌の種類や量が違うので)、人それぞれの好みにもよりますが素材によるザックリとした適温をご紹介すると・・・

牛肉 レア 50度前後 ミディアムレア 53度前後 ミディアム 56度前後 ウェルダン 60〜65度

豚肉・鶏肉 レア・ミディアムレア ✖️ ミディアム 60度前後 ウェルダン 65〜68度

温度計をお持ちの方は参考にしてみてください。 ただし、お肉は火から降ろしてからも余熱で温度が2度〜5度程度上がりますので(加熱温度や火から下ろしたあとの環境による)、どうぞ頭の片隅に・・・。

しかし、これはあくまでお肉自体の温度・・・わかりやすく言いますと中心温度(芯温)です。 注意しなくてはならないのは「加熱温度」ではありません。

熱の伝わり方は、何を媒体にするかで変わります。

わかりやすく例えますと・・・

100度のサウナには入れますが、100度のお風呂では一瞬でやけどをしてしまいます。

同じ100度の加熱でも、空気と水で温度の伝わり方は全く違うのです。

また素材自体の組成成分によっても中心までの熱の伝わり方は全く違います。

非常に大切なのでもう一度言及しますが、先ほどのお肉の温度はお肉自体の温度(芯温)であり、加熱温度ではないのでくれぐれもご注意ください。

我々プロフェッショナルはこの辺りの微調整を肉の種類や加熱方法などにより、見た目や触感、経験に基づいた感覚で判断しながら(数字を意識する事なく)適温を作り出したり、意図を持ってあえてそれをズラしたりする訳ですが・・・

慣れない方がご家庭で適温ピッタリを狙った調理に挑戦するのであれば、なるべく温度計を使ってきちんと芯温を計ることをお勧めします。

何度でも申し上げます。 全てはあくまでも自己責任ですので、ご注意ください(笑)

では、どのようにしておいしい肉料理を作るのか・・・?

料理本はもちろん今の時代にはネット上にあらゆるレシピが掲載されています。

お肉料理に限らずですが、初心者が料理を美味しく作るコツは2つ

まずは、冒頭の話とは矛盾するようですが、ひとまずレシピに忠実に作ることです。

慣れるまで余計なアレンジは禁物です。

なぜなら、素材の個体差より、作り手の能力や個体差の方がおそらく大きいから・・・(笑)

きちんと記載された通りに作れば(内容に誤りがなければ)最低限以上においしいものは出来上がります。

2つ目はきちんとレシピを全部読み、流れや段取りを考えたうえで作り始めること。

モノによっては頭から読みながら進めると途中で突然「180度に温めておいたオーブンで・・・」とか「茹で上げたバスタを・・・」などという表記が現れあたふたしてしまうことが多くあります。

料理によってはそこからオーブンを温めたり、お湯を沸かし始めたのでは間に合わない、致命的なミスになることもあります。

あらかじめ全てをシュミレートしてから始めましょう。

それでは、以上を踏まえたうえで、折角なので一品ご紹介しましょう。

本日のご紹介は「しっとり鶏胸肉のカツレツ」です。

鶏の胸肉・・・非常にリーズナブルで家計の味方ですよね。

しかし加熱するとパサつきやすくおいしく調理するのが非常に難しい食材です。

そんな鶏の胸肉も加熱しすぎず「適温」で調理してあげればしっとりやわらかにおいしく食べられるので是非お試しください。

鶏の胸肉  大きめ1枚(2人前)

香味野菜(人参、玉ねぎ、セロリなど) 適量 白ワイン 200cc ワインビネガー 50cc 塩 45g 水 1500cc

小麦粉 溶き卵 パン粉

お好みでキャベツの千切りやソース、タルタルソースなどご用意ください。

さて、まずは水に塩、ワイン、ビネガー、香味野菜(スライス)を入れて鍋で沸かします。 手元にワインがない、ビネガーがない、香味野菜がない・・・しかももそんなの買ってられない、という方がいらっしゃいますでしょうか? 香りが多少違ってはきますが・・・この際仕方ありません。特別に省略を許可します。(笑)

そして鍋が沸いたら火を止めて、鶏肉をポチャン・・・ 今くらいの暖かい季節ならそのまま、冬場の寒い季節なら蓋をして30分程度・・・指を入れても「アツっ!」とならない程度まで放っておいて冷まします。 沸きたてのお湯に入れることで表面を殺菌。及び。冷めながらの過熱により適温調理という寸法です。

このまま冷めた鶏の胸肉・・・冷蔵庫で冷やしておけば「鶏胸肉のハム」的なものが出来上がり 手で適当なサイズに引き裂いてサラダに散らせばそれはもうおいしく召し上がれます。

が、本日はもうひと手間加えてカツレツです。

指が入れられるくらい(お風呂の温度)まで温度が下がったら鶏肉を引出し、水気をよく拭き取ります。

この手順でまず問題ありませんが、心配で芯温を測るようであれば60度を一度上回っていればオーケー。 逆に先に述べた通り、70度を越えてしまっていたら、過加熱です。

さて、茹で上がった後の皮は好みで外してください。

水気をふき取った鶏肉に、小麦粉をつけてよくはたき、溶き卵をくぐらせてパン粉をまぶします。

フライパンにサラダ油(分量外)を鶏肉をいてた時の半分くらい(最低限、多い分には構わない)を入れて比較的高温に温めておき、衣が色づく程度に短時間で揚げてください。 (鶏肉自体には火が通ってますし、お湯から引き揚げて暖かい状態で進めてますのであくまで衣が色づけばOK)

お好みのサイズに切り分けて盛り付けて出来上がりです。 切り口が薄いピンク色なのが理想的。 ローストビーフやローストポーク(ほど鮮やかな色ではありませんが)のように、チキンも適温で調理すると薄いピンク色に仕上がります。

鍋のサイズや材質によっても温度変化が変わるので、まずはレシピ通りに・・・肉の火加減(肉を入れてからの冷まし方、冷ます時間)は何度か作って微調節してください。

ほらね、最後まで読まないと途中でサラダ油(分量外)とかでてきて、準備してないと困るでしょ?(笑)

注) 本文中では冗談のような表現をしましたが・・・ 数年前には管理不足、知識不足が及ぼした牛肉の生食による死亡事件や、鶏肉起因の食中毒が起きています。 肉でも魚でも野菜でも、正しく丁寧な取り扱いさえしていれば本来問題ないはずの食材ではありますが、昨今現実として肉起因の事件が目立つもの事実です。 何度も何度もしつこく申し上げますが、肉の保存や衛生管理にはくれぐれも細心の注意を払って取り扱ってください。 ご紹介した作り方は、ご家庭でも安心して召し上がっていただける様に考慮し、極力事故が起こらぬようご家庭用にアレンジしておりますが、環境や使用器具等の要素、及び食材の個体差により100%の「絶対」はありません。 作る方、召し上がる方の責任の元、特に小さなお子様等にご用意する際には深く慎重な考慮を重ねた上でご判断いただけますようお願い申し上げます。

以上の文章は以前、WEBマガジン「アパートメント」 http://apartment-home.net/author/concerto/ に寄稿した文章を一部、加筆修正したものです